#45 レイチェルの井戸
シアトルにすむ小学生のレイチェルが
エチオピアの13歳の女の子の話を聞いたのは
9歳のお誕生日になる前の事でした。
「水道も井戸もない所に住んでいる
エチオピアの人達は
9キロの水がめを背負って
毎日水を汲みに行くですって」
水を汲む場所は、
何キロも離れた場所にある
沼だったり、湖だったり、川だったり。
淀んだ泥水でも、
細菌ウヨウヨの濁り水でも
毎日の生活には欠かせない
大切な水です。
片道4時間もかかる道を歩いて
帰りは30キロ近くになった水がめを
毎日毎日運ぶのです。
レイチェルは、お母さんから、
水汲みは、
女の人や少女たちの仕事であることを聞きました。
その13歳の女の子も
毎日往復8時間も歩いて
水汲みをするのだと聞きました。
水を汲んで村に帰ってからは
火をおこしたり、
食べ物を集めたりという仕事が待っています。
勿論、学校に行く時間も
コンピュターでゲームをする時間も
ありません。
アメリカの郊外に暮らす普通の小学生には
想像もつかない異国のお話です。
水がめを担いで8時間の往復をしていた
そのエチオピアの13歳の女の子は、
ある日、水を汲んだ帰り道に転んで、
水がめを割ってしまいました。
せっかく汲んできた水は
乾いた地面に
全て吸い込まれて行ってしまったのです。
その13歳の女の子は、二度と
村に帰る事はありませんでした。
次の朝、通りかかった老人が
木の枝にぶら下がっていた女の子の亡骸を
見つけました。
大切な水を持ち帰れなかった女の子は、
服の紐で自らの命を絶ったのです。
「お誕生日にプレゼントはいらない」
レイチェルはお母さんにそう宣言しました。
チャリティ・ウォーターという
アメリカの非営利団体が
$10あると、
一人の子供に清潔ななお水を提供できる
井戸掘りのプロジェクト活動をしていると
知りました。
「誕生日のプレゼントの代わりに、
清潔なお水をエチオピアの
女の子たちに上げられるように
私はお金を集める!」
それからレイチェルは、
「私は9歳になるから、
一人$9の献金をお願いします」
と、頑張ってお金を集め始めました。
アメリカの子供たちは
クッキーを売ったり
レモネードを売ったり
小さい頃から
自分の教会やボーイスカウトなど
自分以外の活動の為に
お金を集める事を学びます。
レイチェルは、誕生日のプレゼントの代わりに
そのお金を、自分より恵まれない子供たちに
使いたいと思って、集め始めました。
15人の子供を助けるための
目標の300ドルには到達しなかったものの
誕生日には親や親戚、近所の人から
総額220ドルを集める事ができました。
お母さんは
「来年また頑張ればいいよ」
と励ましてくれました。
220ドルがチャリティ・ウォーターに献金された一か月後
9歳のレイチェルは
ハイウエイの大きな衝突事故で
その小さな命を亡くしました。
大きなトラクターが、レイチェルの乗っていた車に
激突したのです。
しかし、
レイチェルの遺志は
そこで終わりにはなりませんでした。
誕生日のプレゼントを
クリーンウォーターの為に
還元しようとした9歳の女の子の話は
メディアを通じて広がり、
数週間のうちになんと3万8千人近くの人が
120万ドルという巨額のお金を寄付したのです。
アメリカから飛び火して
レイチェルが助けたいと思ったエチオピアの国の人達も
9ドル相当ずつの献金をしたそうです。
レイチェルが亡くなった翌年には
レイチェルのお母さん達が
エチオピアのティグレイという村を訪ねました。
そこでは、レイチェルの集めたお金を使い、
清潔な水が得られる
「レイチェルの井戸」の建設が完成したのです。
エチオピアの13歳の少女と
シアトルの9歳の少女。
お互い会った事もない、
言葉も文化も違う二人の少女は
短すぎる人生を終えてしまったことで
痛ましい共通項があります。
しかし、
それ以上に、この二人の少女は
私たちに教えてくれる
共通項を持っているように思います。
自分ばかりではなく、
他人の事を労わる気持ち。
自分ばかりでなく、
人の為に努力をする事。
天国という場所があるなら、
9歳と13歳であった小さな魂は、
きっとそこで巡り合ったことでしょう。
清潔な水と
何も心配をする必要のない
明るい綺麗な場所で
二人はきっと
共通の言葉で遊んでいる事でしょう。
そしてきっと、
自分達の仕事を引き継いで
大人たちは、ちゃんとやってくれているかを
どこから、見ていてくれるように思うのです。
レイチェルの井戸:https://vimeo.com/46300983(井戸が完成した時の短いフィルムです)
自分の為だけでなく、
人の為に何かをする時、
それはきっともっと広い意味で
私たちを助けてくれるのではないかと思うのです。