エマ王妃とキサー・ゴータミー

 

キサーゴータミー(スリランカの切手から)   

エマ王妃 (Wikipediaの写真より) 

エマ王妃 (Wikipediaの写真より) 

ハワイには王国があったので、Queen Emma、エマ王妃様という方がいました。

1836年、日本でいうと江戸時代の終わり頃に生まれた王妃様です。

ホノルルのエリート私立学校のイオラニ校、大手病院のクィーンズホスピタル、

観光名所にもなっているクイーンエマ・サマーパレスなどを作った王妃様です。

この王妃様、20歳の頃に、カメハメハ4世という王様と結婚をします。結婚後2年後にはプリンス・アルバートという珠のような王子様にも恵まれて、母として妻としての幸せな人生を送り始めました。

ところが、このアルバート王子が4歳になったばかりに、突然病死をするという不幸に襲われてしまいました。若い父母の悲嘆は激しく、何を持ってしても、幼子を亡くすという苦しみを癒すことはできませんでした。王妃はハワイ語のチャント、詠唱(えいしょう)や歌にも長け、歌唱家でもあったので、ハワイ語で子を悼む詩や歌を何曲も作って、苦しみを乗り越えようとしたそうです。

しかし、エマ王妃の夫のカメハメハ王4世が、翌年、息子を追うかのように、これまた急死をするという2重の不幸を経験する事になります。愛する家族を失った苦しみは、王妃様も私達平民も同じです。王妃様はホノルルのヌウアヌにあるサマーパレスに引きこもり、外部とは一切孤立して嘆きの毎日を送りました。

それでも、エマ王妃は夫の死後2年して英国を訪れたそうです。船の長旅が、少しでも苦しみを和らげることができるのではと、思った側近たちに励まされたからです。その頃、42歳で、同じく夫を亡くした英国のビクトリア女王と意気投合し、お互いの境遇を語り合ったという歴史記録が残っています。

英国を旅し、ビクトリア女王と会って、一時は元気を取り戻したかのように見えたエマ王妃でしたが、ハワイに戻るとやはり、夫と幼い息子の思い出に、胸が張り裂けそうな心に戻ってしまいます。そこで、側近たちがエマ王妃に、ハワイの中でも癒しの島であるカウアイ島に行くことを勧めます。亡くなった人々の想い出にあふれたホノルルから、カウアイ島に渡ったエマ王妃。カウアイ島でも、心は浮くことなく、悲しみは続いたままでした。

その頃、カウアイは熱帯サイクロン、台風、に見舞われて、多くの死傷者が出ました。家屋は崩壊し、生活の糧をなくした人々。たとえ生き残っても食物や薬品も不足する不自由な生活を余儀なくされたのです。親を失った子供たちは、泥だらけで土の上に寝るような災害後の生活でした。

エマ王妃は、夫と息子とを失った悲嘆の生活から、助けを求める人々のために、初めて外に出ました。自分の悲しみはとりあえずおいて、今、目の前で苦しんでいる人達を、助ける事に集中したのです。掘っ立て小屋の簡易病院で、自ら水を運び、包帯を代え、孤児となった子供たちに歌を歌って聞かせて、慰めました。老人に手を貸し、賄いを手伝い、困っている人達のために、寝る間も惜しんで、手を差し伸べたのです。

カウアイ島の経験から、王妃はやっと自分の苦しみに癒しを見出しました。自分以外の人々をねぎらい、助け、共に苦しむ事で、苦しみや悲しみがやっと薄らぐ事ができたのです。

 

エマ王妃の話は、子を亡くして芥子粒(けしつぶ)を探しまわるインドの若い母、キサー・ゴータミーの話を思い起こさせます。ご存知の方もあると思いますが、有名な法話です。

半狂乱になって幼子の遺骸を抱えたままブッダをたずねたキサー・ゴータミー。子を生き返らせてくれるように、ブッダに泣きながら必死に頼みます。キサー・ゴータミーは実はその数年前に、夫も亡くしており、忘れ形見の子供まで死なせてしまった悲嘆は、言葉にすることができないほどでした。

ブッダは、この哀れな母に「子を生き返らせる前にあなたはしなくてはならない事がある」と言います。

「何でもしまう」というキサー・ゴータミーに、それでは「誰も死人を出した事がない家から、白い芥子粒をなん粒かもらってくるように」と伝えます。

キサー・ゴータミーは、言われた通り、食べ物も水もほとんど口にせず、寝る間も惜しんで、家から家へ必死で、芥子粒を探し回ります。しかし、次第に一軒たりとも「死人を出した事がない家」「悲しみがない家」は存在しない事に気が付くのです。

9日後ブッダの元に戻ったキサー・ゴータミーの腕の中に子供の遺体は、もうありませんでした。そして、泣き叫んでいた女の表情は、穏やかで平安を持ったものになっていたと伝えられています。

 

ハワイのエマ王妃も、インドのキサー・ゴータミーも、

世界中の人々も、

あなたも私も、苦しみを持たないものはないとこの話は伝えていると思います。

愛するものを亡くす苦しみ、家や財産や地位をなくす、または得たいものが得られない苦しみ、それが、自分だけのものではないとわかった時、苦しみがなくなってしまうわけではありません。

でも、生きとし生けるものへ心を寄せる事によって、私達はどんなに救われる事でしょう。

ハワイのエマ王妃が作ったクイーンズ病院では、今でも何千、何万の人達が、癒されており、イオラニ校では、次の世代の子供たちが教育を受けています。キサー・ゴータミーも、悟りを開いたのち仏の弟子の尼僧となり、世の人々の悟りの道を助けたと伝えられています。

苦しんだり、苦労をしたりしている方々の、コーチングやカウンセリングをしていて、どうしてもご自分の苦しみから抜け出る事ができなかった方が、自分の苦労から一歩外にでて、周りの人達に心を寄せる事で、自分も高められ、苦しみから脱した方がたの例をたくさん見てきました。

例えば、ボランティアをする、そんなオーバーなことでなくても、道に落ちたゴミを拾う、通りがかりの人に微笑みかける、友人や家族に優しい言葉をかける、なんでもいいのです、あなたのその「一歩」が、知らないうちに誰かを助けているかもしれません。

あなたが助ける事ができる人が、直ぐ傍にいるのです。

あなたにとってそれは誰でしょうか。

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