#26 「お断り」とお友達
先輩のライフコーチから聞いた話です。
そのクライアントさんは不眠と不安感に悩まされている方でした。
小さい頃から悪い夢に苦しんでいました。
そのせいか、いつも疲労感が強く何をしても長続きしない。
疲れている時や体調が悪い時、学生の頃の受験で大変な時期は
悪夢を毎日のように見ました。
夢の中でこの人は、獰猛で血に飢えた雌のライオンに
いつも追いかけられていたんだそうです。
北アフリカの砂漠だったり、
インドのジャングルだったり、
ニューヨークの街の中だったり、
夢の中で場所は変わっても、
この人はいつも
恐ろしく飢えた野獣から
逃げ回っていました。
もうすぐ噛みつかれて、
喉をかき切られそうになる事が分かっているため、
夢の中で、果てる事なく、
命からがら逃げ回っているのでした。
学校を卒業し、やっと営業関係の就職をしてからも、
ストレスが多い時期には
決まって、
雌のライオンが登場し、追いかけられました。
汗びっしょりになって夜中に何度も目が覚め、
朝まで眠れぬ日も続きました。
したがって、日中も疲労感や倦怠感に悩まされ、
折角の就職先でも「やる気がない」と
批判を受けるまでになってしまいました。
ある日このクライアントさんは心身共に限界まで疲れ果てて、
夢の中でも、もうとても走り続ける事ができない有様になっていました。
雌ライオンが足元まで追いつき、
ライオンの激しい息遣いも、
野獣のすえたような匂いも迫っています。
クライアントさんは夢の中で、ふと、こう思ったのだそうです。
「もう、いいや。
逃げるのは疲れた。
ライオンに食われるなら喰われてやろう。
これも俺の運命だ。」
雌ライオンは飢えた目をギラギラさせながら、
獲物に向かってきました。
硬直して立ちすくんだクライアントさんは、
もうどうにでもなれと
夢の中でしゃがみ込んでしまいました。
そして、今にもガブリと来る!
と思ったその瞬間。
何と、夢の中の雌ライオンが口をきいたのだそうです。
子供の頃から逃げ回って来たライオンとは言え、
悪夢の元凶が、人間の言葉を話せるとは
思ってもみませんでした。
ライオンもゼイゼイと息を切らしながら、
この人を見つめて言いました。
「ああ、お前はやっと止まった。」
きょとんとしているクライアントさんに向かって
ライオンは続けました。
「私は、お前の守護神だ。
お前をいつも守って来た。
それをお前に告げようと、追いかけていた。
お前はそれを聴こうとはしなかった」
恐ろしい物、自分を破壊する物と思って逃げ回っていたものが、
実は動物の姿をした守護神であったというのです。
この夢のあとしばらくして、
クライアントさんはゆったりと眠る事ができるようになり、
安眠とともに食欲も体力も回復。
仕事にも自信が出て、
自己啓発などのセミナーなどに行き始めました。
そして、
自分の人生設計をしようとコーチングを受けにきたのだそうです。
この話を聞いたのはずいぶん前でしたが、
最近聞いた別の話と
繋がりを感じたのでご紹介しようと思います。
その別の話とは、自分を変えたいと行動に出た
ある中国の青年のお話です。
北京生まれのこの青年、ジャジアンさんは、
いつの日かビルゲイツのような世界一の起業家になる
という夢と情熱を持って
アメリカにやってきました。
夢は大きかったのですが、何しろアメリカは大きい、世界も大きい。
情熱さえあれば、誰でもが自分の夢を叶えられるという
生易しいものでもありません。
投資家らから断られたり、
必死で考えた自分のアイデアが不採用になったり、
何度も失敗を重ねて落ち込んだ末、
自分の弱い所は何だろうと考えました。
そして、人から拒絶を受けると、すぐ踵(きびす)をかえして
逃げ出してきた自分の行動パターンを発見しました。
断られるのは誰でも嫌なものです。
拒否されるのが嫌さに、
最初から頼むこと、
試す事をあきらめてしまう人も沢山います。
ジャジアンさんは、
自分のこの弱点をなんとか改良しようと思いました。
ネットでいろいろ調べているとRejection Therapy
(「拒否・拒絶療法」)と言うのを発見しました。
断られる事を前提に
拒否に対する免疫を強くする練習方法を考えたのは、
カナダのコムリーという人だそうです。
拒否されて当然という「難題?」をカードにして
一日一課題ずつ実行し、
自分の持つ「拒否への恐怖」を解消しようという
ショック療法のようです。
ジャジアンさんは、これを自分なりに改良して、
自分でもやれそうな「拒否課題」を100項目作りました。
例えば、
知らない人に$100貸してと頼む とか
消防署の消防士用の柱を滑り降りる事を頼む とか
ハンバーガーのお替りを頼む とか。
始めの課題実行が一番大変でした。
会った事のない守衛のおじさんに、歩み寄り
「すみません、$100貸して」と頼みました。
予想通り「ノー」と言われてしまったそうですが、
踵を返してジャジアンさん、
その場からスタコラと逃げ出したそうです。
後から考えるとそのおじさんは親切そうな人で
「どうして$100貸して欲しいんだい?」と聞いてくれたそうですが、
返事もせずにその場を退散しました。
しかし、
こうして毎日一回自分で決めた「お断り」の課題をこなしているうちに、
この中国青年は、自分の変化に気が付き始めました。
まず、「ノー」の後の「なんでそんなこと頼むんだい?」
と怪訝そうに聞いてくる相手に対して、
ダメもとでも、説明ができるようになったという変化です。
ある時は、
知らない人の家のドアをピンポーンと鳴らして、
「お宅の家の庭にこの植物植えさせてもらえませんか」
とお願いしました。
勿論、断られました、が、
「うちは犬がいて、土を掘り返して植物はダメにしてしまうから」
という理由を話してもらえました。
逃げずにとどまって、ちゃんと聞けるようになってから、
断る理由は人それぞれあって、
それらは必ずしも、
頼んだ人、つまりジャジアンさんの全人格を
否定しているわけではないという事に
気が付いて行ったんだそうです。
ある日は
ドーナツチェーン店に行って、
「ドーナツでオリンピックの5輪を作ってくれませんか」
というお願いをしたそうです。
当然断られると思っていたところ、
マネージャーが来て、話を聞いてくれました。
さらにしばらく待たされた後、
何とそのマネージャーは
オリンピックの輪の正しい色を施した五輪ドーナッツを作ってくれたというのです。
これあがマネージャーが作ってくれた五輪ドーナッツ。ジアジアンさんのyouTubeから
https://www.ted.com/talks/jia_jiang_what_i_learned_from_100_days_of_rejection?language=ja
中国の一青年の「お断り受け取り練習」のお話と
夢で雌ライオンに追いかけ回られていたクライアントさんのお話は、
私の中でなぜかつながって、
こんな事を教えてくれました。
拒否への恐怖、拒絶やお断りへの恐れ、
さらに言うなら「失敗の恐怖」という
「雌ライオン」は、
実は立ち止まって話を聞いてみれば、
アナタを守る、成長させる、気づきをさせてくれる
ベストティーチャーなのではないか。
もしかすると
私達は知らないうちに
怖いものを作り出してしまっているのではないか。
その中には、避けたり、逃げ出したりする必要の
ないものもあるのではないか。
「お断り」はなければそれに越したことはありません。
しかし、
人生には必ず付きものの事柄です。
お断りを怖がらず、
お断りと友達になって、
失敗ともお友達になって、
要するに、ダメ元で
アナタの「雌ライオン」にチャンスを上げてみてはいかがでしょう。
守護動物の雌ライオンの声に耳を傾けてみてはいかがでしょう。
アメリカの発明家トーマスエジソンは、
生涯で2000件近くの特許を取った発明王です。
電球の発明に成功するまで
何と1万回の失敗を繰り返したそうです。
そして、エジソンはこんな言葉を残しています。
「一万回は失敗ではない。
うまく行かない方法を、一万通り発見しただけだ」
発明王のエジソンは、
「失敗王」「発送の転換王」でもあったわけですね。