#105 片足のシンディさん

Cyndi Chair Yoga .JPG

シンディさんは現在52歳、

男性でもタフと言われる

アメリカの海兵隊に

23年前に入隊しました。

 

12年前の2007年

アフガニスタン出兵中

交通事故に巻き込まれて

片足を失いました。

 

8か月間の入退院とリハビリを

繰り返し、

今は服役軍人の恩給を受けて

生活しています。

 

膝から上の切断後

義肢と松葉杖の生活で

帰国後は体の健康を取り戻すのに

精いっぱいでした。

 

米国本国に帰還後

買い物でも公園に行くのでも

外に出ると人の目がありました。

切断された足をじろじろ見る人、

動きが遅いので迷惑そうにする人。

それでも

自分は祖国のために軍務につき、

名誉の負傷をして戻ったと

自分に言い聞かせました。

 

軍は退役し

通院も間遠になった後

生活は次第に引きこもりがちに

なっていました。

 

家族はなく一人暮らしですが、

片足を失った事より、

もっと自分を苦しめている事がある事に

気が付きました。

 

軍務で出かけて行った

見も知らぬ国、アフガニスタン。

言葉も文化もわからぬ国で

目に焼き付いた悲惨な状況。

貧困、殺戮、破壊。

 

ある忘れられない記憶がありました。

起きていても、

いつでもその記憶があるし、

夢にも何度も出てくる光景です。

 

アメリカ軍のキャンプに

お菓子や食べ物をねだりに来る

10歳から14-15歳の

子供たちがいました。

自分の故郷で言えば、

自転車やスケボーに乗って

コンピュターゲームに没頭している

小学生か

中学生位の年齢の子供たちです。

 

爆撃で自分の村を追われて

逃げて来た子供もいれば、

親を亡くした子供もいるようでした。

 

事故があってから後

知らされた事です。

 

子供たちは、

イスラム国(ISIS)や

タリバンなどイスラム過激派組織に

リクルートさた

少年兵たちだったのです。

困窮生活をしている子供たちは

食べ物やお金や

ピカピカのスマホなどでつられ、

メッセンジャーや見張りとして

スパイとして、

中にはジハッドの名目で洗脳されて

トレーニングを受けていました。

 

子供だと疑われにくいので

グループは積極的に

リクルートを繰り返していました。

 

役に立ちそうな年齢の子供を

お金と引き換える家族もあるのだと

知りました。

 

シンディさんの記憶にある、

戦闘の引き金を引いた自爆兵は

14歳の少年でした。

 

アメリカ軍に協力するアフガンの警察を

攻撃する目的で、

少年自身を含め6人が死亡、

警察官5人と一般市民を巻き込んで、

混乱を起こした爆破事件です。

 

シンディさんはその事件現場に駆け付ける

応援隊のメンバーで

現地に向かう途中、

軍のトラックと地元警察を巻き込む

大事故に遭ったのです。

 

阿鼻叫喚の真っただ中、

シンディさんは

衝突した車の下敷きになり、

朦朧とした意識の中で

破壊されたビルの、

立ち埃や煙を見ました。

 

人々が叫びながら駆け回っている

状況も見たように記憶しています。

誰かが

「車の下にもう一人いるぞ!」

と、どなっている声も聴きました。

『ああ、自分のことだな』と思いました。

 

あの事故以降、

実際に自分の目で

自爆した少年を

見たわけではないのに、

その場にいたかのように

少年の様子が

網膜に焼き付いているのです。

 

受けた事故のショックと

自爆事件の状況が記憶の中で

重なって

しまったようでした。

 

腹に手作りの爆弾を巻き付け、

緊張した表情の少年が

チェックポイントに

歩いて行っている様子。

 

ちょうど、仮設テントに

時々やってきて、シンディさんたちが

M&Mのチョコレートを上げた

子供たちの姿と重なりました。

 

自爆した少年が、

自分がしっていた同じ少年たちでは

ないとわかっていても、

それでもシンディさんの心は、

えぐられるような苦しみで

いっぱいになってしまっていました。

お菓子を手にして

この上なくうれしそうだった

少年たちの顔が目に浮かびました。

 

あの子たちも、

いつか爆弾をやせた腹に

巻き付けて

自爆兵になってしまったのだろうか。

大人になることなく、

死んで行ってしまったのだろうか。

 

切断された自分の片足への想いは、

洗脳されて死んでいった運命の

アフガニスタンの子供たちへの

えぐられるような想いと重なりました。

 

もう左足がないのに

左のつま先がうずく時、

バラバラに飛び散って

散乱してしまった子供たちの、

体と魂が

元に戻りたがっているように

感じられてしまうのです。

 

自分の足は、

あの子たちに

自分がささげる事ができた

唯一のものだったというような

どこか屈折した気持ちにさえ

なってしまいました。

 

シンディさんは1年以上、

ほとんど家を出る事をせず、

人にも会わず、

深い後悔と混とんの中での

時間を過ごしました。

 

ある日、

退役軍人センターの担当官が

やって来て、

義足の人もできる訓練がある

と伝えてくれました。

 

元々体力には

自信があったシンディさんは

「訓練」と聞いて

少し心を動かされました。

 

その訓練とは

椅子に座ったヨガだというのです。

「ヨガ?」

シンディさんは躊躇しました。

 

ドラッグをやっている

長髪の似非宗教家のイメージが

「ヨガ」という言葉と

一緒に浮かんできました。

 

話を聞いてから

実際にクラスに行くまでには

さらに1か月以上が経ちました。

 

アメリカ軍の兵隊と

古代のスピリチュアルなヨガ。

シンディさんにとっては、

何ともしっくりこない

不思議なコンボでした。

 

しかし、実際に行ってみると

そこにいた人達は、

自分と同じように

心や体に深い傷を負っている人達

だという事に気がつきました。

 

「Warrior at Easeにようこそ」

ヨガの先生がそう言って、

義肢や義手を持った軍人たちに

挨拶しました。

 

Warrior at East

~心安らかな戦士

 

グループのカウンセリングや

セラピーではなく、

また今までやって来た肉体だけの

軍事訓練でもなく、

アサナと呼ばれる

ヨガのポーズをとる事。

 

自分で体を動かし、

呼吸を感じ、

自分と体と心と精神とを

少しずつつなげる事。

 

ゆったりと自分のペースで

失われてしまっていたものを

見つける事。

 

失われた足とも

自爆していった少年の心とも

他国を守るという脆い理想とも、

失われたものを

もう一度見つけ出して

そして、

手放す事。

 

確かにそれは、

体だけの訓練とは違う

もっと別の意味の訓練でした。

 

椅子に座って手足を動かしているつもりが、

いつしかそれが、

深い贖(あがな)いにつながる事を

シンディさんは体得していきました。

 

椅子ヨガを始めた頃から

シンディさんは義肢をせずに

街を歩くようになりました。

 

ない事を恥ずかしいとは思わず、

ない自分を

まっすぐ見つめて、

失ったものだけではなく、

今ある自分に向き合う事が

できるようになって来たのです。

 

自分を罰することではなく

自分を労わる事を

やっと許したのです。

 

体を動かすと、

昔の軍事訓練の充実感が

少しずつ戻ってきました。

片足でもできる事があると

新しい自分を発見しました。

 

自分のような立場にある人に

是非知ってもらいたいと

椅子ヨガの訓練を受ける

ヨガのインストラクターたちに

自分を実験台に

訓練をしてもらうように

生徒役のボランティアもする事にしました。

 

私がシンディさんに会ったのは

こうした訓練コースの途中です。           

足がない人

手がない人

下半身不随の人

体ではないけれど

心や脳が傷ついている人。

 

ヨガを通じて

生きる意味を再度みつけ、

なごんだ、心安らかな戦士になる事。

そんな趣旨のWarrior at Easeプログラムで

多くのヨガの先生が、

多くの退役軍人さん達が

トレーニングを受けていました。

 

シンディさんに

「写真を撮ってもいいかしら?」

と聞くと

「取って頂戴よ。

皆にどんどん知らせてほしい」

と、明るい声で、シンディさんは

快諾してくれました。

 

足を失い

心の一部を

遠い国アフガニスタンに

置いてきてしまったシンディさんは、

今ではそこにいるだけで

周りの人がつい

ニコニコしたくなるような

強さと明るさを持った人になっていました。

 

足が無くなった事と

心を深くえぐられる経験をしたことが、

シンディさんを、

周りの人をも

明るくする人に

変身させてしまったようなのでした。

 

 

おこがましくも先生として

「椅子ヨガ」を教えている私は、

シンディさんを見て思うのです。

 

本当の先生とは、

知識やスキルを教える人なのではなく、

シンディさんのような人の事を

言うのだなと。

 

シンディさんに会った時、

思い出した相田みつをさんの

この言葉を皆さんにお送りします。

 

あなたがそこにただいるだけで、

その場の空気が明るくなる。

あなたがそこにただいるだけで、

みんなの心がやすらぐ。

そんなあなたに私もなりたい。

 

相田みつを

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