#101 スターフィッシュ
スウェーデンに住む
グレタ・トゥーンベリちゃんは
今年16歳、
昔読んだ童話、
世界一強い女の子「長靴下のピッピ」
を彷彿とさせる女の子です。
長い二本の赤毛のおさげ、
そばかすの表情がとても真剣で、
思った事はそのまま言葉に、
人一倍の集中力と影響力を持つ少女。
今では世界中の人が、
「気候変動阻止」の活動家としての
彼女の名前を知っています。
グレタちゃんは11歳の頃
気候変動という
「地球の病気」の話を聞いて、
とても心配になりました。
食べ物が
のどを通らなくなるほどでした。
石油、天然ガス、石炭などの
化石燃料のせいで、
毎日200種という動物や植物や
海の生物たちが絶滅している!
驚異的なスピードで消えて行ってしまう
地球の仲間の事を思って、
多感な少女は鬱状態になり
だんだん話す事もしなくなりました。
育ち盛りの少女の体重が
10キロも減ってしまいました。
元々、アスペルガー症候群という
発達障害を持っていた
グレタちゃんのこの様子を
お父さんもお母さんも
とっても心配しました。
でも、グレタちゃんは、
持前の素晴らしい集中力で
今地球が経験しつつあるという
「第6次大量絶滅期」について
勉強しました。
今までの5億年で地球は
氷河期、火山の爆発、隕石などで
5回の大量絶滅期を
経験してきた事。
今が第6次絶滅期に
入っているという怖い現実。
科学者たちが最近発した警告では、
現在、生物の絶滅ペースが
予想していたより100倍も
早まっているという事でした。
このままでいけば、
自分が大人になる
10年後、
20年後に
地球はどうなっているのだろうと
真剣に悩みました。
若者らしく、
政治家たち、大人たちが言っている事が
あまりにも、
もどかしく感じたのです。
グレタちゃんが診断を受けた
アスペルガー症候群は、
発達障害の一つとみなされています。
知的障害を伴わない自閉症、
または高機能自閉症と
呼ばれることもあります。
人の感情や雰囲気をつかむ事が苦手、
社会や人との
コミュニケーションが取りにくい、
特定分野へのこだわりが強い、
自分の関心事について話続ける傾向などの
特徴を示す反面、
驚異的な集中力を持ち、
思った事、心に浮かんだ事を
悪気なく
そのまま正直に言葉にするという点も
持っている障害だそうです。
去年の夏の終わりの8月の事、
グレタちゃんはある決心をします。
それまで落ち込んで
何もできないでいた
そんな自分ではいられない、
15歳の私でもできる事を
何かしようと思い立ったのです。
「鬱になっている暇なんかない」
「ウーン、学校に行っている暇もないわ」
地球の緊急なテーマである
排気ガス削減、
地球温暖化阻止、
大人たちに伝える事を
心に誓ったグレタちゃんは、
スウェーデン議会前に
「気候変動阻止の学校ストライキ」
と書いた手作りの看板を持って
たった一人で
訴えに出かけたのです。
使わない電気は消そうね、
紙をリサイクルしよう
ごみを減らさなくちゃ、
そんな段階はとうに過ぎちゃったのよ!
国中の人が、世界中の人が
危機にある今の状況を理解して、
あらゆる努力をして
排気ガスを大幅削減しなければ、
私たちの今の地球は続いていかないのよ!
通りかかる人に
訴えかけました。
「学校へ戻りなさい」
「勉強をちゃんとして
環境の科学者になればいいじゃない?」
「さぼってないで」
したり顔で諭そうとする大人たちに
「私たち、地球に住めなくなっちゃうのよ!
学校へ行っている暇はないの!」と一言。
グレタちゃんのプラカードの前を
怪訝な顔で通りかかっていた人々も
毎朝8時半になると
議会前に1人でやってくる少女の訴えに、
一人、また一人と
賛同する人たちが現れました。
「私達子供がやった事ではない。
貴方たち大人がやってきたことです。
私たちの声を聴いて。
私たちの未来を奪わないで」
当初登校拒否の娘を
何とか学校に戻そうとした
両親も、グレタちゃんの理論と訴えに
最後は負けてしまいました。
「私たちのお家が火事なのよ。
希望を持って少しずつやって行こうなんて
悠長な事を言っている場合じゃないの」
「目を覚まして」
「パニックして」
「地球の『火事』を皆で消さなくちゃ」
グレタちゃんの必死の声は、
やがて
スウェーデンの議会ばかりか
国連の気候変動会議、
世界中の環境保護活動家にまで
届きます。
更に今年2019年3月には
世界中の子供たちに訴えて、
「環境保全の学校ストライキ」を
提唱し、実に50か国以上の国の
子供たちが参加したというのです。
子供たちの声を
大人たちも聞かずにはいられない状態に
なったのです。
私はグレタちゃんのお話を聞いて、
スターフィッシュの
寓話を思い出しました。
皆さんは聞かれたことがあるでしょうか。
こんなお話です。
「嵐が去った後、波打ち際に
沢山のスターフィッシュが
打ち上げられていました。
強い波と風のせいで、
スターフィッシュは
陽にさらされて、
少しずつ
干上がってしまっていました。
1人の男の子が、
そのスターフィッシュを
一つ一つ拾い上げて、
海の方まで投げてやっていました。
そこに一人の老人が通りかかり
『君は一体何をしているのかね』
と聞きました。
『見てごらん、何百何千もが
打ち上げられてしまっているんだ。
無駄な事はやめるんだね』
男の子は老人の言葉を聞いて、
それでも黙って
次のスターフィッシュを
拾い上げました。
そして、海の生き物を一匹ずつ
水に返してやりながら、
『うん、でもこいつにとっては
僕のしている事は無駄じゃないよ』
グレタちゃんは、
自分にできる事を一生懸命考えて
実行しました。
今でもその活動を続けています。
スウェーデンの名もない少女の
行動は、
スターフィッシュを一匹ずつ
拾い上げては水に返してやっていた
男の子の行動に似ています。
日干しになった何千もの
スターフィッシュを
この子一人で全部助ける事は
出来ないでしょう。
でも、グレタちゃんもこの子も
止めてしまう事はしなかったのです。
最初から諦める事もしませんでした。
干上がっている生き物たちを見て、
仕方がないと、大人たちのように
歩き去る事もありませんでした。
私が助けてあげられる一匹の
スターフィッシュ。
グレタちゃんがそんな風に言っている
声が聞こえます。
私にできる事を
今やろう。
諦めないでやろう。
私にできる事が一つは
絶対にあるんだから。
私を待っている
一匹のスターフィッシュは
必ずいるんだから。