#111 ホワイト封筒クリスマス
アメリカのクリスマスは
ご存知のように、‘
ツリーの下にプレゼントを並べ、
当日になると、
集まった家族や友人たちと共に、
子供たちにせがまれて、
一つ一つ
プレゼントを開けていくのが習慣です。
裕福なお宅は大きな樹の下に
色とりどりのプレゼント、
つつましい家族の
小さな木の下にも
子供たちや愛する人への
ギフトボックスが並びます。
外に小雪が散らついていても
家の中は
ケーキを焼く香ばしさや
特別のお料理のにおいに
溢れている楽しい時期です。
ハワイでも
ショーツを履いた
赤ら顔のサンタさんが、
子供たちの夢を
運んできます。
しかし、いつしかギフト交換が
商業化し過ぎてしまい、
ショッピングモール大混雑、
これでもかと
セールやギフト購買に血眼になる
消費者があふれてしまっているのも
現実です。
ナンシー・ギャビンさんのお宅でも
3人の子供たちにプレゼントを
準備するのは
毎年の恒例でした。
御主人のマイクさんは、
商業化しすぎたクリスマスを
苦々しく思っていました。
「僕はクリスマスシーズンは嫌いだ」
と、はっきり宣言していたのです。
ナンシーさんは、
どうしたら
子供たちの夢も壊さずに、
商業化でなく、
心のこもったギフトが
できるかと考えて、
ある年、一計を講じました。
その年の初め、
学校でレスリング部に
入っていた息子の
レスリング大会があった時のことです。
遠征に来ていた学校の中で、
レスラーたちが
頭にかぶるヘルメットや
膝を守るサポータ―なしで
大会出場している
事に気が付きました。
息子と同じ12歳~13歳の
スポーツマンたちは
貧困地区から来ている少年たちで、
高価なヘルメット等が
賄えなかったのです。
サポーターなしの膝は
地面に押さえつけられると
痛みがひどいらしく、
怪我をする率も
高そうに見えました。
息子たちにはピカピカの
ヘルメットがあるのに、
一方、
恵まれない少年たちは、
ヘルメットなし。
それでも、
一生懸命スポーツをする姿は
心に残りました。
そこで、その年ナンシーさんは
地元のスポーツショップに行って、
サポーターやヘルメットを
チームの人数分
買い込むことにしました。
そして、
スポーツショップに頼み、
直接その少年たちの練習場まで
匿名で、
ギフトを届けるよう
アレンジをしたのでした。
さてその年のクリスマスの日が来ました。
ナンシーさんのお宅の
クリスマスツリーには
一枚の薄い白い封筒が
飾られていました。
封筒の宛先はご主人のマイクさん。
サンタさんからのプレゼントです。
その封筒を開けてみると、
貧困家庭の
少年レスラーたちに
ヘルメットと膝当てサポータを
贈った事が書かれていました。
マイクさんの顔に満面の笑みが
浮かびました。
「クリスマスは嫌いだ」
と言っていたマイクさんは、
この白い封筒を
大切そうに両手に温めたのです。
サンタが運んだギフトを使って
レスリングの訓練をしている
少年たちの有様が目に浮かびました。
マイクさんだけでなく、
子供たちを含め
ナンシーさん一家に
お店で買ってきたギフトとは
一味違う歓びをもたらしたのです。
次の年、
精神疾患のある子どもたちを
アイスホッケーの試合に
招待したというギフトが
白い封筒に書かれていました。
次の年は、
火災で家を失ったご近所の
老兄弟への贈り物でした。
毎年、ささやかでしたが、
ナンシーさん夫婦ができる、
心のこもったギフトが
匿名のサンタさんからとして
贈られて行きました。
子供たちもクリスマスが来るたびに
白い封筒の中に
どんな特別のギフトが入っているかを
心待ちにしていました。
家族は白い封筒を開けるのを
毎年楽しみにするように
なったのです。
その後、
マイクさんは癌に倒れ
早く亡くなってしましました。
傷心のナンシーさんが
その年、
クリスマスツリーの中に
見つけたのは、
3通の白い封筒でした。
3人の子供たちが
夫々自分達にできる事をして
家族の伝統になった白い封筒に
書き入れてくれたのです。
この白い封筒の
ギフトはナンシーさん一家、
そして、それから何年かして、
独立していった子供たちの
各家庭の
毎年の習慣になりました。
後にナンシーさん宅の
このお話を聞いた人達が
夫々の白い封筒クリスマスを
始め、
匿名でギフトを与える
ホワイト・エンベロップ・プロジェクト
というグループまで
できたそうです。
クリスマスシーズン、
大それたことはできなくても、
たぶん私や貴方の家庭でもできる
ささやかなサンタの
草の根のお話です。
私はこのお話を聞いて、
マイケル・ノートンさんという
ハーバード大学教授が書いた
「幸せを買う方法」
という本の事を思い出しました。
「お金で幸福は買えるか」
というテーマの本です。
一般的に信じられているように
「お金で幸福は買えないというのは、
必ずしも正確な表現ではない」
と、このビジネススクールの先生は
言います。
お金の使い方によっては
幸福をもたらすのだというのです。
この先生はある実験をしました。
アメリカだけでなく、
カナダ、アフリカのウガンダで、
お金がもたらす
幸福度の実験です。
いくらかの現金を参加者に与え、
「このお金を今日5時までに使ってください」という
指示を与えました。
5ドルから20ドル程の金額なので、
多くの参加者は
スターバックス直行。
自分のコーヒーを買うか
中には友達に
おごってやった人もいました。
家族に
ちょっとしたプレゼントを買った人、
ホームレスの人に上げた人もいました。
そして、その体験について話してもらい、
更に「幸福度」に変化があったかどうか
という質問をしたそうです。
すると、結果は、
金額の高さではなく、
また、お金の使い道だけでなく、
誰かのために
お金を使ったという事実が
幸福度に影響する事が
分かりました。
もらったお金を
自分の為だけに使った人は
特に幸福度に変化は
ありませんでした。
コーヒーは飲んでおしまい、
スナックは食べておしまい。
ギフトも買うと、
それでおしまい。
でも例えばホームレスの人に
お金を使った人は
その時の幸福感を報告
してくれました。
ウガンダでは、
たまたまあった友人の娘の
病院の費用が
払えないというので、
もらったお金を寄付した人がいて、
その時の充実感を報告しました。
前にもお話したことがありましたが、
人にお金や時間を与える事を
仏教では布施と言うそうです。
お布施は今では
お寺さんへの寄付金
のように使われていますが、
もとは、持つものを与えるという意味の
仏教語です。
お金で、毎回、幸福を
買う事が出来ないまでも、
お金、時間、労力、また気遣い等
自分が持つものを
自分以外、
自分の家族以外に
布施する事は、
ホワイト(封筒)クリスマスの
ナンシーさんの家族のように、
いずれは自分を幸せにすること
なのかしらんと思います。
私達の本当の幸福とは
「持つこと」ではなく、
持つものを
「シェアする事」なのだと思わせてくれます。
皆さま、
世界の各地で年末年始を
お過ごしのことと思います。
この時期、一つでも
自分以外の人に
何かシェアできる事を考えて、
実行出来たら
素晴らしいなあと思いますが
いかがでしょう。