#114 チェロキー族の智慧
最近、ホノルルにある
妙法寺という日蓮宗のお寺で、
「心と向き合う」というテーマで
テノール歌手でお坊さんという
ユニークな山村住職と
対談をする機会がありました。
代々鎌倉の刀鍛冶の家系を出て、
イタリアでオペラ修行中、
仏教を発見したという方です。
心の中には、
不安や怖れや怒りなど、
なかなか一筋縄ではいかない
ものがあります。
特にウィルスという
目に見えない脅威を感じ、
恐怖や不安をあおる情報が
錯綜し、疑心暗鬼にも
なりがちな今日この頃、
自分の心の動揺や不安感と
どう付き合ってくかは、
多くの人の関心事です。
ハワイでも、
学校が休校になり、
イベントが次々とキャンセル、
人混みを避け、
自宅待機が奨励されています。
そんな中、
この日は10数人にお集り頂き、
心のお話をする事ができました。
仏教の考え方では、
心とは、
実体のないうつろいやすいもの
という見方をするそうです。
実体のないものに
ついつい振り回されてしまう心を
仏教では
瞑想やお経をあげる事で
鎮めると
住職に教えていただきました。
心理学の方面からですと、
マインドフルネスを培う事に
つながると思いました。
実体のないものに
惑わされがちの
私たちとしては、
やはり自分にできる事と
出来ない事、
正しい情報、
ぶれない自分を持つことが大切で
あると思います。
疾病のパンデミック(世界的流行)
ですから、
勿論、
健康、衛生を最優先に、
栄養、休養、適度な運動、
十分な睡眠など、
体の基本的な免疫力を高めることは、
言うまでもありません。
未知のものへの不安や恐怖は
当然のことです。
しかし、
むやみやたらの
度を越した心配ではなく、
役に立つ心配は必要なことか
とも思います。
同時に
不安や怖れの心を
より深く理解するという事も
心の免疫を
高める大切な点だと思います。
不安の心、怖れの心は
ちょうど体の肉体的痛みと同様、
「警告」という
大切な役割を果たします。
心理では
恐れや恐怖は、
実際の脅威に対して持つ
人間として基本的感情と定義します。
一方、心配や不安は、
脅威がない場合でも持ち得る、
感情です。
頭の中で、あれこれ想像してしまうのが、
心配や不安感ということに
なりますね。
そこでこのブログでも
以前ご紹介したことのある
チェロキー族の民話を
対談の際、
ご紹介させていただきました。
心のネガティブな部分に
対応するという面から、
アメリカ先住民族の
智慧を伝えた民話です。
チェロキーの民話「白い狼と黒い狼」
チェロキーの長老と孫が
会話を交わしています。
「私達の中には
白い狼と黒い狼が住んでいる」
皺深い往年の勇士は小さな孫に
話します。
「この二匹はいつも闘っているんだ」
「フーン、おじいちゃんの中にも住んでいるの?」
「そうだ。お前の中にも
小さいけれど、白い狼と黒い狼が住んでおるぞ」
「え、僕の中にもいるの?」
「ああ、そうだ」
「黒い狼は、
怒りや妬み、嫉妬、恨み、
劣等感、嘘、罪悪感、
後悔、自己嫌悪、傲慢、エゴ、
などで、できている」
「白い狼は、
喜び、平安、希望、優しさ、
謙遜、善良さ、同情心、
寛大さ、真実、思いやり、
誠実さ等で、できている」
「ふーん」
「この二匹は、
私の中でも、
お前の中でも、
皆の心の中にいて、
いつも闘っている」
話を聞いていた孫は、
少し考えてこう聞きました。
「どっちの狼が勝つの?」
長老はこう答えます。
「それは、お前が餌を与えた方だ」
ここで普通はお話が終わります。
私が前に配信したお話も
ここで終わりにしました。
心配や怖れに餌をやり続ければ、
太って、元気になり、
ますます、
大きな心配や怖れになってしまう。
というのが、
人口に膾炙しているストーリーです。
従って、
心配や怖れの心に
餌をやらない、
つまり、
考えてもどうにもならない事には
必要以上には考えない、
という教えです。
このお話には続きがあります。
チェロキーの長老は、
「どっちの狼が勝つの?」という質問に
実は、こう答えたのだそうです。
「この二匹に
上手に餌をやる事さ。
すると、両方とも勝つんだ」
白い狼にも
黒い狼にも
餌をやれと
先住民族の智慧は伝えていたのです。
どうしてかというと、
私達が心の中に持つ
ネガティブな心の面は、
ポジティブな面と同様、
全くなくなることは
ないからです。
チェロキー族の長老は
孫に伝えます。
「良い方の狼ばかりに
餌を与えたとするね。
黒い狼は腹が減っても
餌が来ないから、
隠れて
白い狼が弱まったり、
油断するのを待つ。
そして、
襲ってくるんだ。
必ず襲ってくる。
人間の中にいる狼とは
そういう風にできているんだ。
だから、
両方の狼に餌をやる事さ」
「両方に餌をやるの? どうして?」
目を丸くして聞いていた孫は
老人に聞き返します。
「黒い方の狼にも
生きていくのに
必要なクオリティがあるからだ。
恐れを知らない勇気、
粘り強さ、
頑固さ、
頑なさ、
頑張り、
戦略的な思考。
そして、
白い狼には
その黒い狼のクオリティを
包み込む智慧、
思いやり、
包容力がある」
まだ、不思議そうな顔をしたままの
小さな孫に往年の勇士は伝えます。
「人間が生きる時、
両方の面がある事を知る事だ。
二つを合わせた智慧が生まれる。
心の中の葛藤が収まるのだ。
いつもいつも、
一方だけが勝っていると、
葛藤や闘いが続く。
環境や状況に即した
ガイドの狼を、
心の中で選ぶことができる。
チェロキー族のミッションは平和だ。
それは、心の平和から始まる。
心のピースを持った人間は
全てを得る事ができる。
外側に何があっても、
心のピースを持たない
人間たちは、
何も得る事が出来ない」
チェロキー族は、
ヨーロッパ人がアメリカ大陸に
やって来た時
積極的に友好関係を結び、
相手を受け入れる態度を示した
部族だったそうです。
未知のもの、不確定なものを
受け入れる勇気、
判断をする智慧、
弱者への配慮、
コミュニティとの繋がりを
優先する事で
自分たちの部族を
守ったそうです。
COVID-19,
新型ウィルスが
私達の体だけでなく
内側から
心や生活に侵入しつつある現在、
チェロキー族の長老の言葉を
思い出し、心の免疫を高めたいと思いました。
心も栄養、十分な休息、
適度な運動を必要とするもので
独りでできない事も、
周囲との協力で
できる事もあります。
孤立化が進む今こそ、
二匹の狼に適度に活躍してもらい、
心の健康を保ちましょう。
私達は一人ではありません。
孤立する必要はないのです。
夫々の心の中にいる
二匹の狼たちでもつながって
いるのですから。