#32 利他の心

(字遊書家BINA)

(字遊書家BINA)

たたき上げの国際ビジネスマンMさん、

日本を出てアメリカ本土に渡ってからは

製造業界でビジネスを成功させ、

アメリカにとどまらず世界の国々でも活躍中の

50代のクライアントさんです。

 

Mさんが、チャレンジな時期を経験されていた頃

私は数か月、頻繁にお話を聞く機会がありました。

 

語学の才能に恵まれ、分析力や洞察力に大変優れたMさん、

今まで成功されてきたのは、当然の事だと思います。

離婚を一度経験されている方ですが、

それも乗り越え、今後の生き方を探っている頃、

会社の人間関係でひどく躓くという経験をされていました。

 

同じ時期に腰痛が始まり、睡眠不足や食欲減退など体調も崩れ、

朝起きだすのも辛い。

ストレスを騙しだまし仕事を続けていたので、

精神的にもとうとう

ブレークダウン寸前になってしまっていました。

 

Mさんは、数か月迷った後、

一度ビジネスを畳み

新しい土地に行って、出直してみようという大決心をしました。

ご家族のご病気などもあって、

それが一つの引き金になったようです。

「言うは易く行うは難し」の、

とても勇気のある行動だと思いました。

 

このMさんが、一年以上たってから連絡をくれて

こんな言葉を伝えてくださいました。

 

「新しい土地で、若いエネルギーに囲まれて暮らしています。

かつてのように褒められる自分だけ目指していたら

果たしてこのような生活ができていたかどうか。

 

たった一年少しで、10年分以上の友達作りができました。

年齢も多岐にわたり、国籍も性別もバラバラ。

他人に褒められるためではなく、

他人を褒めるために生まれてきたと思った結果だと思います」

 

自信満々に見えたビジネスマンが、

直に

「かつて自分は褒められる自分を目指していた」と

語るのはどんなに勇気がいる事でしょう。

 

でも、意を決して環境を変え、生活態度を変えてから

「他人に褒められるためではなく、

他人を褒めるために生まれてきた」と気づき、

 

それを実行した一年で、

 

年齢も国籍も性別も多岐にわたる

友達がどんどんできてきたという報告です。

勿論、新しいビジネスも好調であるとのことです。

 

私はこの報告を心から感動して読みました。

 

そして、

「他人を褒めるために生まれてきた」というMさんの新しいあり方が、

分子生物学者の村上和雄先生の提唱されている

遺伝子のスイッチをオンにする」という言葉

に通じるものがある事に気が付きました。

 

従来の遺伝子学では、

突然変異という変化球がたまにはあるものの、

DNAが親子間、世代間の情報伝達を決定するもので

生きるものはDNAによってある程度運命は決められているという

考え方をします。

 

所が、最近ではエピジェネティックスという

新しい遺伝子学の考え方が出てきたのだそうです。

 

高血圧の引き金を引くレニンという酵素の研究で

世界的注目を浴びている村上先生によると、

エピジェネティックスという聞きなれない学問は、

人体の遺伝子の、多種多様な可能性

(これをオンかオフかと区別しています)を探り、

後天的に決定される

遺伝的な仕組みを解明しようとする学問です。

 

つまり、エピジェネティックスによれば

人間はDNA万能ではなく、

よい遺伝子を「オン」にできる可能性があるのだそうです。

 

 

かつて、相手の論点の弱い部分を的確に容赦なくついて

ビジネスをシャープに進めてきていたMさんが、

相手の良い所、優れた所を褒める事から

人間関係を作り直し始めた途端に、

 

多くの人々が引き付けられる魅力的なリーダーとして

先輩として、同僚として、

人々が周りに集まって来たという事実、

これはMさんが良い遺伝子のスイッチをオンにした成果だ

と思いました。

 

 

村上先生は望ましい遺伝子をオンにするためにできることを

次のようにあげています。

 

  • · 物事に集中し、継続させる

  • · 常識に縛られず自由な発想ができる

  • · 明るく前向きで人との出会いを大切にする

  • · 思い切って今の環境を変える勇気がある

  • · 感謝し、感動できる

  • · そして、世のため人のためという考え方ができる

 

まさに、Mさんが実行し、成功した利他の心だと思いました。

 

エピジェネティックスによると、

遺伝子にも

利己的遺伝子と

利他的遺伝子があるのだそうです。

 

利己的遺伝子とは

「細胞にある自己の維持と繁栄のみを追求する遺伝子」

勿論、利己的遺伝子がないと、

個体が存続しないので大切な機能ではあります。

 

しかし、

一つ一つの細胞だけでなく、

細胞がまとまって作る臓器、

臓器がまとまってつくる

母胎の正常な維持をつかさどる

大切な利他的な遺伝子も存在するのだそうです。

 

この利他的な遺伝子の一つに、

アポトーシスと呼ばれている自ら死ぬ自己犠牲的型遺伝子があります。

 

犠牲というと感情論的になってしまうかもしれませんが、

個としての自分の存続ばかりでなく、

自分が褒めら生き続けるだけでなく、

最初に母胎(地球、地域、環境、他人)の利を考える、

 

平たく言うと、村上先生のあげる「世のため人のため」

ができる機能をなるべくオンにしておくという

ことでしょうか。

 

相手を心から褒めるというのは、

褒め返してもらいたいから褒めるのではなく、

相手の存在を認め、

相手があるから自分も存在させてもらっている

というような「利他の心」から出た行為の一つなのだろうなあ

と、思いました。

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