#23 僕のお仕事

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そのお母さんは地方の小都市出身で

ハワイでマッサージ師のお仕事をしている方です。

27歳で結婚、

29歳の時にお子さんを生みましたが、

ご主人とは、

息子さんがまた2歳になるかならないかで離婚をしました。

離婚、ハワイ移動、

実家の協力がなければ、ここまでやってくるのは、とても無理でした。

お母さんは、離婚後のしがらみのある小さな町を離れ、

息子さんと二人で、

ハワイに来ることにしました。

紹介をしてくれる人があって、マッサージ師なら、

英語がそんなに流暢でなくても、

日本人の多いハワイでやっていける

と言ってくれた診療所のスポンサーが見つかったからです。

(注:これは誤解で、ハワイでも仕事をしていくなら「英語は絶対に必要です」とのこと)

 

勉強熱心なお母さんは、

伝統的なマッサージも身に付けたいと思い、

ハワイに来てすぐ、

ロミロミマッサージトレーニングに申し込み、

英語も一生懸命勉強しました。

訓練中は、実家のお母さんにホノルルに長期滞在してもらいました。

やがて、試験に通りビザも取れて、

日本人旅行者やローカルのお客さんを常連客に持つ

マッサージ診療所に職を得ました。

ホスピスの患者さんや、ご家族などからの

出張マッサージリクエストも入ってきて、

何とか生活も安定してきました。

私の所にコーチングのご相談にいらっしゃたのは、

イヤイヤ時期の息子さんが手に負えない、

仕事をしながらシングルで、幼児を育てる事に、

これでいいのだろうかと不安を感じたから

とのことでした。

しかし、お話を聞いて見ると、

離婚の後や、英語でのお仕事の事、

実家との行き違いといろいろ、

まだ心に引っかかっている事があるようでした。

こういうクライアントさんの場合、

少しカウンセリングの手法も取り入れてまず、

お話を聞かせていただいています。

 

沢山のチャレンジな事に囲まれて、

あれもこれもなんとかしようとすると、

挫けてしまうので、

少しずつ、もつれを解いて、

できる事から見つけてみようと

コーチングに移っていきます。

 

お話をじっくり聞かせていただいた後、

「今、一つだけ変えたい、

一番何とかしたい事があるとすると、

それは何ですか」

と聴いてみました。

これは、コーチングのやり方の一つです。

このお母さんはしばらく口をつぐんでいましたが、

こう答えました。

 

「息子を、どうしても好きになれない事です」

私もこのお返事には、ちょっとびっくりしました。

母一人、子一人のその息子さんを、

好きになれない?

自分が腹を痛めて産んだ子供を

好きになれないお母さん、

ご本人も自己嫌悪に悩んでいる事らしく、

孫を可愛がってくれている

自分の母親にも

誰にも言えないでいたと言います。

 

お母さんがポツリポツリと話してくださったのは、

こんな内容でした。

息子さんの性格、顔やしぐさが前のご主人と瓜二つ、

ハワイで保育園に行くようになり、

少し自我も出てきて扱いにくくなってきた事、

行動が緩慢な子で、

よく言えば鷹揚でのんびり屋さん、

母から見ると

「トロい」「鈍い」子供だという事、

自分がそうなりたくないと思っているような

「愚鈍」ともいえる性格が、

そのままそこにある気がするというのです。

 

 

ハワイに来た当初、

自分の母親に預けていたのが悪かったのか甘えん坊で

朝も支度がさっさとできず

「早くしなさい」と叱ると

「ママは嫌い。お祖母ちゃんがいい。

どうして日本に帰っちゃったの」と反抗します。

 

息子さんにまとわりつかれるのも嫌で、

可哀そうだと思っても、

ついじゃけんにしている自分がいる、、、

お母さんは本当に悩んでいるらしく、

自分が努力している事を

涙を流しながら、切々と訴えました。

 

新しくできたアメリカ人のボーイフレンドは

息子を可愛がってくれるけれど、

自分には息子を邪魔だと思う気持ちしかなく、

それではいけないと思って、

無理によい母を演じているので、

疲れてしまっていると言います。

 

このお母さんのような方から、

相談を受けたら

皆さんなら何と言ってあげるでしょうか。

 

それは、貴女が悪い。

子供を好きになるようもっと努力をしなさい。
。。。でしょうか。

母親が子供を嫌いなんてありえない。

子供が大きくなれば可愛くなるはずだ。

。。。でしょうか。

いっそのこと、前のご主人か、実家に預けてしまったらどうか。

。。。でしょうか。

 

 

自分の子供だけでなく、

ご自分の家族、親、兄弟、姉妹を好きになれない、

いや、むしろ嫌いだ

と言う方は、

実は、思うよりたくさんいらっしゃいます。

それを人に言えないでいるという方に

私は何人もお会いしました。

大人になれば、

身内が嫌いだという気持ちと付き合うやり方も、

なんとか覚えたとおっしゃる方もいます。

 

私がこのお母さんにお話ししてみたのは、

胎内記憶」のお話でした。

私もこれは、もうお孫さんのいるある先輩から聞いた話です。

 

池川明先生という

お医者さんがいらっしゃいます。

横浜で産婦人科をされている方です。

赤ちゃんが2-3歳くらいになって

言葉が話せるようになると、

お母さんのお腹の中にいた時の事を

覚えて話してくれる子供が、

全体の3割位いる、

これに興味を覚えて調査をしてみたら、

子供たちの話に共通点があった、というのです。

 

胎内での記憶は、

「暖かかった」

「お父さんやお母さんの声が聞こえた」などと言うものから、

「(お母さんのお腹の)中で背中の方に行って遊んでいた」

「こんな風な恰好で寝ていた」という、

具体的なものまであります。

 

さらに、驚くのは、

子供たちの中には、

胎内に宿る前の記憶を持っている

という子供たちもいる事です。

そして、

その記憶の話に共通点が見られるというのです。

「お母さんを選んでお腹に入った」

「どのお母さんにしようかお空で待っていた」

「一緒に待っている天使みないな他の子供もいた」

「上からお滑り台のようなのに乗って、スルッと入った」

 

池川先生の研究や、

日本全国のお母さんたちが自分のお子さんの声を

収録したものはyouTubeにも沢山載せられていますので、

ご興味のある方は見てみてください。

「自分が「点」のようなものだった(精子?)」

という記憶のある男の子は、自分が「点」だった状態から、

「お魚」になったり「鳥」という時期を経て、

「手が自然に生えてきて」人間の形になった絵を描いて見せたりと

、全くたまげてしまう動画もありました。

 

その中にホクト君という、

もう今高校生くらいになっている男の子の

小さい時の動画がありました。

お母さんの質問に北東(ホクト)君は、

子供とは思えないしっかりした言葉使いで答えています。

「僕はおかあさんがいいなと思って、

選んで生まれてきたんだよ。

悪い人や困っている人が

まだ地球にいっぱいいるでしょ。

僕は人の役に立つために生まれてきたよ。

大変だなあと思っている人達をね、

導く役目なんだよ」

 

この子供たちの記憶が本当にあるのか、

大人に誘導されて

それらしく話しているだけなのか、

共通点というのも、

聴いている大人の期待感から

作り出されたものなのではないか、などなど、

わからない点、疑問点、質問点は沢山あります。

2-3歳の子供たちの言葉ですから、

わかりにくいし想像の世界の事なのか、

お話を作っているのかも、正確にはわかりません。

しかし、池川先生がおっしゃるのは、

記憶を持っているという子供たちが、確かにいて、

そのほとんどが「親を選んで出てきた」

と言っている事実だという事です。

 

私はこの話を

マッサージ師のお母さんにしてみました。

お母さんは妊娠中に、

胎内記憶の話を聞いた事があったそうですが、

実際に動画を見たり、記事を読んだことはないという事でしたので、

いくつか見ていただく事にしたのです。

 

この話をした後しばらくしてから、

お母さんから胎内記憶の感想のメールが届きました。

「あれから、考えてみました。私が息子を嫌いというのは、

子供の問題じゃなくて、

私の問題なんだと気が付きました。

もし本当に、

息子が私を選んで生まれてきてくれたのだったら、

選ばれた母親にならなくてはいけないと思います。

息子に対して持っていると思っていた感情は、

もしかすると、

私が自分自身に対して持っている

感情なのかもしれません」

 

昔から「子供は親を選べない」

という言い方がありました。

大人になった私たちが、

母親がこうであってくれればよかった、

父親がこんな父親だったらよかったと

嘆く際に使う言い方です。

子供を愛せない親、

自分の持ち物のように扱い、置き去りや虐待をしてしまう親、

世の中には悲惨な話があふれています。

しかし、子供たちが私達を選んで

生まれてくるのだとしたら、

その子どもの存在自体が、

私達、親の成長を促すためのお仕事だと、

言えるのかもしれません。

もしそうなら、

私達はその事実をどう受け止めたらよいでしょうか。

子供の成長と共に、

親として人間としての自分の成長も、

できるように考えたらよいのではないでしょうか。

 

お母さんはその後、

息子さんとの関係がすごくよくなったと話してくれました。

まず一つする事は、

息子にイライラせずなるべく優しい言葉をかける事、

それから息子との時間を大切にする事ということでした。

 

最後に、

私の娘は一歳ちょっとの赤ちゃんの時に

養子としてもらわれてきた娘です。

ですから、

「お母さんのお腹のなかにスルリと入ってきた」

というわけにはいきませんでしたが、

それでも、縁あって、

やっぱり私を母親として選んで、

我が家にやってきてくれた娘であると思っています。

娘はたぶん、養子としてやってきてくれた

お母さんの私の方にも、

たぶんスルリと入った中国人のお母さんの方にも、

いろいろな事を教えるお仕事を続けてくれています。

 

池川明先生紹介http://ikegawaakira.com/events/

映画「神様とのやくそく、胎内記憶を語る子供たち」https://www.youtube.com/watch?v=CZMbLkp_NQ4

僕が生まれてきた理由~ホクトの胎内記憶~https://www.youtube.com/watch?v=UB2iAlLr6QE

https://www.youtube.com/watch?v=UB2iAlLr6QE

#116 二本の矢

ミルトン君は小学校6年生。

小粒で繊細タイプ。

野球やサッカーはいまいち。

お母さんは 外に出て遊んでおいでと

よく言うけれど、

家の中で、

猫のスナグルと一緒に

ゲームなんかしている方が

どちらかというと好き。

それに、

近所にいるクラスメートの

ダンカンは

ミルトン君の顔を見ると

直ぐ寄って来て

小突き回そうとする。

外にあまり行きたくない

理由の一つ。

 ダンカンは、

学年は同じだけれど、

もう、薄らっと口ひげなんか、

はやしちゃって

体もミルトン君の

1.5倍はある。

この前もそうだった。

理由もないのに

急に寄ってきて、

なんだかんだ

難癖をつけると

最後は胸倉をつかんで、

いじめようとした。

典型的ブリー(いじめっ子)、

すっごく嫌な奴だ。

今は学校がオンラインだけど、

又、あいつに会うと思うと

このままずっと

学校には行きたくないのが

ミルトン君の本心。

 

「また会っていじめられたらどうしよう」

「どうやって逃げよう」

「先生や大人に言ったら、

後でもっといじめられる」

ミルトン君は本気で、

心配しています。

今日、ミルトン君は、

猫のスナグルが

後ろ足をびっこを引いていたのに

気が付きました。

よく見ると

怪我をしたらしく、

血液が後ろの毛に

ついて固まっています。

理由はすぐわかりました。

ダンカンの家の

ドーベルマン犬の

ブルータスにやられたのです。

スナグルは、

散歩の途中、

時々ブルータスの傍まで行くのです。

 「あそこに行っちゃいけないよ」

と、ミルトン君は

言い聞かせているのに、

怖いもの見たさなのか、

スナグルは、

わざわざブルータスの傍に行って、

いじめられて怪我までして

帰って来たのです。

 「お前は、また

あいつにやられちゃったんだね」

自分の姿を見るように、

ミルトン君は、

おじいちゃんと一緒に

猫の傷口を丁寧に

手当をしてあげましtた。

 

猫は嬉しそうに

ゴロゴロ言っています。

そして、

傷口あたりをしばらく

ぺろぺろ舐めていましたが、

やがて、

ミルトン君の横で

気持ちよさそうに

昼寝を始めました。

 ミルトン君は思いました。

「僕はダンカンの事が嫌で

心配しているのに、

怪我をさせられて帰ってきた

スナグルはどうして

こんなに気持ちよさそうに

寝ていられるんだろう?」

 ミルトン君は、

不思議に思って

おじいさんに聞きました。

 おじいさんは

「猫は今に生きているからさ」

と、当たり前のように言います。

「お前は、ダンカンに

いじめられるかもしれないという

ありもしない将来に

生きているから

心配で、いられないんだな」

 「ありもしない将来」って

おじいちゃんは、

ダンカンを知らないから

そんなこと言うんだよな、

ミルトン君はちょっと

ふくれっ面をして思いました。

「猫は今に生きている」って、

ドーベルマンのブルータスに

いじめられることを

忘れちゃっているってこと?

スナグルは心配しないのかな。

「今に生きている」って

どういう意味かなあ。

ミルトン君は、

しばし考え込んでしまいました。

 

ミルトン君のこのお話は、

「パワー・オブ・ナウ」の著者で

精神性の世界的指導者の

1人と言われている

エックハルト・トール氏が

子供用に書いた

「ミルトンズ・シークレット」

という本からのお話です。

著者は、

ミルトン君のおじいさんの

声を通じて、

私達には「今」しか存在しない

という事を伝えたかったの

だと思います。

 

しかし私達はミルトン君と

同じように、

過去の経験から学んで、

将来に備える

という思考過程を学習し、

生活していますから、

おじいさんの言う

「ありもしない将来を心配するな」

と言われても

そう簡単に

できるわけではありません。

 

「貴方が、何か外から来る理由で

苦しむことがあるならば、」

とローマ時代の哲学者

マルクス・アウレリウスという人も

言ったそうです。

「貴方を悩ますのは、

その外から来る

事物、事象自体なのではなく、

それに関する

自分の判断、知覚、感情なのだ」

 確かに、

ミルトン君を悩ましているのは、

ダンカンに

いじめられたという

過去の事だけではなく、

ダンカンに

又いじめられるのではないか

という自分の判断による

将来への心配でもあります。

これは、認知行動心理のセラピーでも

用いられている考え方です。

起きてしまった事、

言われた事、

これらは

変えようのない事実ですが、

それに関する自分の判断とは

自分が選択する余地の有るもの

という考え方をします。

 平たく言うと、要するに

「ものは考え様」

という事ですね。

 私は離婚した前の夫が

不義理をした時、

自分に過失があるからだと

信じ込んで、

苦しみました。

夫の行動=私自身の過失

と固く思い込んでいたからです。

 

物事をどうとらえるか

貴方の価値を作るという

考え方もあります。

相手の行動が

こちらにも

原因があるとしても、

実際には、

相手の行動はあくまで、

相手の行動と

離して考える事は

セラピーなどを通じて

できるようになりました。

よく、私のセラピストが

聞いてくれたものです。

「彼は、そういう事した。

それは貴方が、

どうだということなの?

貴方はその行動について

どう考えるの?

それは貴方にどう関わるの?」

 仏教にも「二本の矢」

という説話があります。

 有名なお話ですから

皆さんもお聞きになったことが

あるかもしれません。

生きとし生けるものは

必ず苦楽がある、

そして、それは

二本の矢を受けるようなものだ、

と仏様が言ったそうです。

阿含経というお経の中の

「箭経」にあるお話で、

「箭(せん)」というのは「矢」の事

だそうです。

 一本目の矢とは、

生きていると起こる

あらゆる事象の事を指します。

仏様は苦楽と言って

楽しい事の方も含まれたそうですが、

今回は特に、

私達に苦しみをもたらす矢と

捉えて話を進めます。

コロナ菌騒ぎで失業した、

病気になった、

事故を起こしてしまった、

肉親が亡くなった、

子供が反抗する、

ダンカンにいじめられる、

夫が浮気をする、

人生で飛んでくる矢は,

数限りがありません。

これは、

水がある限り

風がある限り起こる

水面の波であり、

避けようのない波紋です。

仏様が言われたのは

二本目の矢です。

これは避ける事ができる。

これは選択する自由があると

言われます。

何故ならそれは、

自分の判断だからです。

どう反応するかは

貴方が決められることだからです。

さざ波を荒波にする事もできるし、

さざ波が収まるのを

待つこともできます。

波が起こる事は第一の矢で、

第二の矢はそれを

どう受け止めるかという事です。

荒波を立てれば

二本目の矢も

ぐさりと刺さります。

三本目も、四本目も来てしまうかもしれません。

二本目を引き抜いて

更に相手に投げ返すかもしれません。

 自分の苦楽に拘泥してれば、

自分がどの矢と面しているのか

分からなくなってしまします。

心が奪われた状態だからです。

一本目の矢を体への矢

二本目の矢を心への矢と

考える事も出来ます。

決める選択肢が

貴方にある。

二本目の矢を避ける選択も

二本目の矢を投げ返す選択も

二本目の矢を

取り除く選択も

貴方にある。

ミルトン君のスナグルが

傷を受けても

ゴロゴロと気持ちよさそうに

寝る事が出来たのは、

猫が二本目の矢を

どうするかを

知っているからなのかもしれません。

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